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 本目録は,表題のとおり,「近代日本の南方関与」について第2次世界大戦後に日本で刊行された諸文献のタイトルを極力網羅的に採択し,分類したものである。「南方関与」という用語を,われわれはここでは仮に,「『大東亜共栄圏』期を中心とした日本の東南アジアおよびミクロネシアへの政治的・経済的・文化的進出」を指す言葉として利用している。

 こうした試みの先行業績には,本目録「0:E.文献目録・研究動向・史料事情」,その他各節E項に掲げたものがある。これらの中でわれわれがまず参考にしたのは,河嶋慎一(編)『東南アジア邦文資料目録1946〜1983』アジア資料懇話会,1985年,である。本書は,基本的には狭義の東南アジア地域についての単行本の採録を行ったものであるが,専門ライブラリアンの協同による本格的目録であり,今後も長く参照されるべきである。特に1983年以前に刊行された単行図書については,本目録と同書を補完的に利用されることを希望する。また,丁寧な文献リストを付して研究動向をサーヴェイした論文として,橋谷 弘「日本・東南アジア関係史研究の成果と現代的意義――日本における研究を中心として――」(『アジア経済』34-9,1993年9月)に啓発されるところが大きかった。

 われわれは,1993年4月から1997年3月まで,京都大学人文科学研究所の共同研究活動の一環として「『大東亜共栄圏』の経済的構造」という共同研究会(班長:山本有造)を組織した。この会は,より広く「『大東亜共栄圏』の研究」を行うための先行的・準備的研究会の性格を持つものとして発足したのであるが,残念ながら当初の目的を十分果たすことができなかった。その原因は種々であるが,そのひとつは,近年発展の著しい東南アジア史および東南アジア地域研究の成果を取り入れる明確な方法と視角を欠いたことにあった。この過程でわれわれは,もう一度基礎に立ち帰って,これらの分野の研究動向と研究成果を学び直すことを痛感した。

 幸い,上記研究会の班員として参加された盛田良治氏(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程:フィリピン近現代史専攻)が基礎作業としての文献目録の作成に興味を示されたので,1997年度の京都大学人文科学研究所リサーチ・アシスタントを委嘱し,この作業に当たっていただくことにした。この経緯によって,山本が監修の立場にたって目録の方針・設計・検討を担当したが,実際の作業はもっぱら盛田氏の知的・肉体的労力に負っている。

 本目録では,先行業績に比して,(イ)東南アジア(外南洋)に加えてミクロネシア(内南洋)を含め,(ロ)研究文献にとどまらず復刻資料や回想録類を含め,(ハ)台湾の南方関与文献にも留意するなど,採録範囲を広くして,上記の問題意識に添う方向を模索した。ただし時間的な制約のために,採録刊行物が網羅的でなく,また目次・目録類からの再録に留まった部分が少なくないなど,今後に改善の余地を多く残している。とりあえず「稿本」として仮印刷に付し,利用者のご教示・ご批判を仰ぐこととしたい。

                                 1998年12月

京都大学人文科学研究所
山 本 有 造


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