[Institute for Research in Humanities. Kyoto University]
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海外の東方学研究者による京都大学人文科学研究所の教育研究活動に関するレビュー

2002年3月



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 京都大学人文科学研究所が主催する連続公開シンポジウム「21世紀の東方学」は、新しい世紀の東方学がいかなるものであるべきか、人文科学研究所ひいては京都大学がいかなる研究方向と研究体制をもってその新しい東方学を構築していくことができるのか、を探る試みである。


 第1回シンポジウムの趣旨説明において桑山正進人文科学研究所所長(当時)はこの観点から、海外の大学・研究機関に所属する第一線の研究者による(回答者一覧)、日本の、京都の、そして人文科学研究所の東方学に対する評価や展望に関するレビューの計画を開示した。それは言うまでもなく、我々が自らの研究教育活動のあり方を再検討し、新しい東方学を構築していくための立脚点と指針を得ることを目的とするものであった。また同時に人文科学研究所が従来同様、東方学における国際的研究教育拠点であり続けるためにも、特に海外からみた評価と展望にはどのようなものがあるのか、この機会にしっかりと把握したいと願うものでもあった。


 このことを承け、第1回シンポジウムの終了後、我々は以下のような内容でレビューを依頼した。


レビュー依頼項目




 これらの全てあるいは一部について、回答形式、分量とも自由に評価を行っていただきたい旨を書面に認め、同時にシンポジウムの趣意書(要約)と第1回・第2回のプログラムを同封し、我々が現在どのような方向を目指し、何を行おうとしているのかを理解していただけるよう努めた。


 その結果、2002年1月末までに後掲のように24通の回答を得ることができた。内訳は中国から13名、台湾から2名、アメリカから4名、フランス・スウェーデン・オランダ・イギリス・シンガポールからそれぞれ1名である。いずれも我々が予期していた以上に真剣で熱のこもったレビューであった。なかには10頁近くにのぼる長文のものもあり、まさしく人文科学研究所がこれまで積み重ねてきた研究業績、あるいは国際協力の実績への高い評価と信頼のあらわれであるといえよう。それぞれに所属機関において要職をつとめられ、日常的に多忙をきわめる方々であるうえに、年末年始の慌ただしい中、しかも返答までの期間がきわめて短かったにも関わらず、熱意と学術への愛情に溢れる回答を寄せてくださった回答者の方々には、この場をかりて心よりの感謝を申し述べたい。


 寄せていただいたレビューについて、その全訳(ただし手紙文の頭語・結語に類する表現は原則として省略)を掲載したので、詳細についてはそちらを参照していただくとして、全体の傾向についての我々の理解を以下に簡単に記しておく。


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従来および将来の研究内容、研究体制について

 人文科学研究所が培ってきた世界最高峰の中国古典文献学の伝統や、共同研究方式の意義の大きさについては、ほぼ全員の回答者が強調している。当然、新しい世紀の新しい課題にあたっても、人文科学研究所の東方学が必ずやこの伝統の上に構築されていくべきである、と述べられている〔例えばドレージュ・虞和平・張啓雄・章開?・湯志鈞・楊天石などの回答を参照。以下同〕。


 また別の角度から、現実社会との関係の重要性を強調しすぎるきらいのある現今の世界的傾向の中では、人文科学研究所がこれまで高い水準で遂行してきたような、伝統的価値観の意義をさぐる人文学研究の持つ意味は、日本のみならず世界的により一層重視されねばならず、人文科学研究所がこれまで以上にこの面に留意した研究活動・研究体制を構築していくべきだとの期待も述べられている〔張広達・陳耀庭・ローゼン・カールソン・牟発松など〕。これは人文学研究というより広い領域において、人文科学研究所の研究活動が世界的に重要な意味を持ってきたし、これからも持ちうるという評価と期待のあらわれである。そのような観点から、今後は、これらの基礎基盤の上に立ち、現代研究や実地調査などにも重点をおきつつ、より学際的領域横断的な研究分野の創設に意を用いることが奨励されている〔黄寛重・プライス・フォーゲルなど〕。


 さらに、日々進歩し続ける電子技術の成果に対応して、漢字情報学研究をこれまで以上に推進することが必要だとの指摘がある。特に漢字の整合の問題は漢字文化圏のみならず、国際的文化交流という面からも極めて重要であり、国際的漢字データベースの構築を含め、人文科学研究所が今後この分野において中心的役割を果たすことが期待されている〔張海鵬・章開?など〕。


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国際協力体制の構築

 人文科学研究所が国際学会、シンポジウムの主催者としてこれまで以上に活発に活動することが期待されている〔張海鵬・黄寛重・メア・メッツガーなど〕。特に将来の課題として、研究者の相互交流の活発化・共同フィールド調査の実施などはもちろんのこと、既存の研究者のみならず、将来の東方学、人文学研究を担う学生・若手研究者の相互受け入れや現地研修プログラムの創設がのぞまれている〔金沖及・黄寛重・張豈之・宋鎮豪など〕。


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研究成果、情報公開

 従来の研究成果公開や文献情報サービスには一定の評価がある一方で、今後の課題としてネットワーク、ワールド・ワイド・ウェブを用いた成果公表、文献検索システムの構築が強く望まれている。サーキュレーションに関しても、出版物自体のそれよりも、出版情報のサーキュレーションに問題があるという点が指摘された〔チャン・ムーア・カールソンなど〕。また中国語および英語による情報公開・成果発表への希望も提示された〔チャン・ローゼン・葛兆光・黄留珠など〕。


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教育体制

 人文科学研究所は、昨今、日本の大学では珍しくなってきた助手制度を維持し、若手研究者に研究に専心できる環境を提供してきた。寄せられた回答の中には、人文科学研究所の今日を築き上げてきた大家への言及と並んで、このような若手研究者が次々と育ち、学術伝統の継承と発展が実現されていることへの高い評価がある。研究所の研究活動に即して言えば、これは過去および現在の研究班と助手制度とに、高い教育的機能を是認するものであると言える〔金沖及・フォーゲル・黄留珠・牟発松など〕。一方、今後の大学院研究科開設計画に関してもほぼ全員から賛意と期待が寄せられた。国際協力体制の項で触れたとおり、これまでの伝統を活かしながら、新たな東方学のフロンティアを切り拓いていくべき学生、若手研究者の組織的な教育および研究支援活動を行っていくことが、国際的にも強く望まれている。


 以上のような回答を受け取った我々の側は、予想以上の期待と評価の高さに身の引き締まる思いである。多忙をぬってレビューを寄せてくださった方々のご厚意に報いるためにも、これらの内容を活かした新たな研究教育システムの構築に、より一層真摯に取り組まねばならぬと考えている。


 なお、レビュー依頼から回答のとりまとめにかかわる全体作業は人文科学研究所の池田巧・稲葉穣・船山徹の三名が執り行った。ただし、寄せられた回答の内容が予想以上に濃く、また分量も多かったため、翻訳作業については人文科学研究所東方学研究部の助手諸氏に協力を願った。それぞれ多忙な中、依頼を快諾していただいたことに感謝し、ここに銘記してあらためての謝意を表したい。訳語の調整等、最終編集作業は前記三名が行っており、当然のことながら編集・翻訳に関する責任はこの三名に帰するものである。この点も銘記しておく。


レビュー回答はPDFファイルでご覧下さい。
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レビュー回答者一覧(掲載順、敬称略)


ジャン=ピエール・ドレージュ(フランス極東学院院長)

金沖及(中共中央文献研究室副主任・中国史学会会長)

張広達(北京大学中国古代史研究中心教授・プリンストン大学客員研究員)

張海鵬(中国社会科学院近代史研究所所長)

黄寛重(台湾中央研究院歴史言語研究所所長)

陳耀庭(上海社会科学院宗教研究所前所長)

アラン・チャン(シンガポール国立大学人文社会学部副学部長)

スタファン・ローゼン(ストックホルム大学東洋言語研究所教授)

虞和平(中国社会科学院近代史研究所副所長)

ヴィクター・H・メア(ペンシルヴァニア大学教授)

葛兆光(清華大学中文系教授)

張豈之(西北大学名誉校長・清華大学教授)

ジョシュア・A・フォーゲル(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授・プリンストン高等研究所客員教授)

張啓雄(台湾中央研究院近代史研究所研究員)

黄自進(台湾中央研究院近代史研究所研究員)

ドン・C・プライス(カリフォルニア大学デーヴィス校教授)

宋鎮豪(中国社会科学院歴史研究所研究員)

トーマス・A・メッツガー(スタンフォード大学フーヴァー研究所教授)

章開沅(華中師範大学中国近代史研究所教授)

黄留珠(西北大学歴史系教授)

オリヴァー・ムーア(ライデン大学中国学研究所講師)

湯志鈞(上海社会科学院歴史研究所研究員)

楊天石(中国社会科学院近代史研究所研究員)

アンデルス・カールソン(ロンドン大学アジア・アフリカ学部講師)

牟発松(武漢大学人文学院歴史系教授)

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