―今月の写真―


大学構内にて:軍服を着た予備役(徴兵を終えて、復学した男子学生)
銃を手にする人々、銃を手にしない人々
―韓国、徴兵制を持つ国―
写真・文章 朴 眞煥 * 
男なら軍隊にいけ!

世界では170あまりの国々が兵役制度を持ち、その中で、徴兵制を持つ国は83ヶ国。韓国も徴兵制を持つその中のひとつの国だ。

私はそんな韓国で生まれ育った。振り返ってみると徴兵制というものは、私に大きな影響を与えている。いや、私だけじゃなく、すべての韓国男性に影響を与えている。

韓国では、18歳になると徴兵の「資源」として管理されはじめる。19歳で、徴兵検査を受け、この処分に基づいて、入隊し、一般社会から切り離され、軍事訓練を受ける。軍隊の中で約2年間、兵士として生きていく。2年というと短いと思われるかもしれないが、2年で社会はがらりとかわる。まるで浦島太郎である。

それどころか、多くの人々は「韓国の男は、軍隊に行くのは当然だ」と信じている。このような社会的な言説は、徴兵制の当事者である男性(彼の家族、友達、恋人)には大きな圧力になる。入隊前の男性は「どうすれば徴兵を逃れられるか」悩み、落ち着かない日々をすごす。しかし、行くしかない。入隊を拒否すれば、刑務所送りだ。

「男なら軍隊に行くのは当然だ」と話していた両親がいつの間にか、徴兵を免除してもらえる裏のルートを捜す。「自分のかわいい息子は、軍隊に送りたくない」という矛盾があるのも事実。私の周りにも、両親のおかげで徴兵を逃れた友達がいた。

じつは、徴兵制は「社会的不平等」の象徴だ。だから、軍隊に行くしかない「普通の家」にうまれた男性は「徴兵免除」という言葉に腹が立つ。不当な方法での「徴兵免除」を許せない。韓国社会において徴兵を逃れることは危険なことだ。
「真の国民」になる過程?

当選有力な大統領候補の息子が不当な方法で兵役を忌避したため、落選した例。人気アイドル歌手が兵役を避けアメリカの永住権を取り、韓国への再入国が拒否された例。五輪で金メダルを取ると、兵役が免除される例。

これらは徴兵が「真の国民」になる過程に密接に関係することを表す。それどころか、「徴兵を終えた男性=成長した・頼もしい・男らしい・社会性がある」という徴兵制についての言説があり、徴兵制は重要な「通過儀礼」だとみなされている。だから、普通の「韓国国民」は「徴兵制」に抵抗できない。

徴兵を拒否する人

私も徴兵制に抵抗できず、軍人になった。軍人になり、いつの間にか兵士たちに対する暴力を正当化している自分に気がついた。このことをきっかけに、軍隊というものは何なのかと考えはじめた。

そして、ある日、良心と思想の自由、性的アイデンティティに基づいて、徴兵を拒否し、刑務所に行くことを選ぶ「良心的徴兵拒否者」と出会った。その数は1万人を超えている。彼らが「徴兵制」を拒否する勇気の源は何だろう。彼らと話しあった。
「カトリック信者として初の徴兵拒否をしたんで、悩みました。貧しい人々を助けることが大事だと思うし、ミサに参加すると天国にいけると思ってます。大学生の時、『カトリック信者の会』というサークルにはいって、農村でボランティアをしていて、人間と自然とのそのねじれた関係に気が付きました。
 そんな時、9・11テロとイラク戦争が起きて、戦争こそが生命と生命との関係を極端にゆがめるんだと思いました。戦争をやめないといけない・・・。軍隊が力の均衡をとり、戦争を抑止するという論理は間違えてると思いました。聖書には『私の平和は世の中の平和とは異なる』という文章があって、軍隊は『真の平和』を作れないと確信しました。カトリック信者として徴兵を拒否することを決めました」。

「長い間、自分の性的アイデンティティについて悩みました。僕自身さえ僕の内面が『女』ということを認められなくて。でも、5月頃やっと自分を認めることができました。その時、他の人に『私自身』を表現しないといけないと思って。
 僕が軍隊について考えはじめたのは17歳頃から。軍隊に行くのを想像すると、死にたいくらいだった。26歳まで、普通に生活することができなかった。僕の性的アイデンティティを認めてから、すべてのことが明確になったんだ。6月、徴兵拒否を決めました。性的マイノリティの人権問題に取り組むようになりました。裁判で「執行猶予」を下され、いつかは刑務所に行くしかないのがとっても怖いですが、今の私はとっても幸せです」。


道で、1人でデモする徴兵拒否者。
「僕が男に見えますか。じつはこれでも僕は女なんです。
女に生まれたかった男」と書かれてある。
彼らは、軍隊の代りに他の方法で兵役を終える権利を求める。しかし、韓国社会は、徴兵拒否を受け入れられないと反対している。解決の方法が見えないまま、激しい論争だけが行われている。

銃を手にする人々、銃を手にしない人々、彼らをわかつものは何だろう。これからも考え続けたい。
* 修士課程 
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