―今月の写真―
“創造への挑戦 Challenge for the creation
― 航空自衛隊・ブルーインパルス ―
写真・文章 福西 加代子 * 
航空自衛隊第4航空団第11飛行隊。

それが日本国内唯一のアクロバットフライトをおこなうブルーインパルスの正式名称である。そして乗組員はドルフィン・ライダーと呼ばれる。

ブルーインパルスはT-4と呼ばれる戦闘機をアクロバット仕様にし、1番機から6番機でアクロバットフライトをおこなう。彼らの任務は、全国の航空祭やイベントでアクロバットフライトを披露し、航空自衛隊の広報活動に貢献することである。全国でおこなわれる航空自衛隊の航空祭で必ずメインとなるのが、ブルーインパルスである。

航空祭が始まると他の戦闘機が飛行展示をおこなっている間、ブルーインパルスの乗組員は会場内で、やってくる人々と写真をとり、笑顔でサインをしている。飛行展示の時間が来ると、彼らは滑走路脇に並ぶ6機のT-4へとゆっくりとむかっていく。一糸乱れぬその行進を人々は静かに見守る。点検後、ドルフィン・ライダーが乗り込み離陸準備を整えていく。徐々に高鳴るエンジン音に対し、会場は静寂に包まれる。

安全装備の装着や点検、全ての準備が整うと、1番機から順に観客へと手を振り、親指を立てて、滑走路へと向かっていく。離陸。轟音の中で1番機から6番機までが飛び立つと、あっという間に6機は空の彼方へと消えていく。

観客の張り詰めた空気が緩むのもつかの間、「上空をご覧下さい」というアナウンスの声とともに、隊列飛行のブルーインパルスが会場上空に姿をあらわす。
その瞬間に鳴り響くシャッター音と歓声。
人々が空を仰ぎ、同じ方向を見つめる。
その先にあるものが、戦闘機であるという感覚はない。
美しくしなやかなイルカが泳ぐ姿を目を細めて見ているようである。
立っている場所が、自衛隊の基地内であるという感覚はない。
青い海辺にそびえる断崖にただ一人たたずんでいるようである。

上空で披露されるさまざまな技は天候に応じて4区分を使い分けている。1番機から4番機までが「フォーメーション」と呼ばれる編隊飛行を、5番機、6番機が「ソロ」と呼ばれる単機による機動を見せ場としている。

『創造への挑戦 Challenge for the creation 』。そのテーマを掲げて、航空自衛隊の広報活動のためにブルーインパルスは空を飛んでいる。航空自衛隊への若者のリクルーティングと、国民への認知、それが広報活動の主なものである。そのために彼らは戦闘機でアクロバット飛行を繰り返し、飛行展示をおこなう。

一方で人々は自衛隊基地で、戦うことを前提とされた戦闘機によって展開されるスペクタクルに目を奪われる。観客はそこから“戦争”という言葉を連想しない。彼らが見るのは素晴らしい機体や乗組員の技術への驚嘆と感動だけである。

飛行展示と観客、両者の間にある大きなずれ、戦闘機のアクロバット飛行展示にある矛盾を少しでも解き明かしていきたい。
* 博士後期課程 
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