―今月の写真― | ||
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<対峙する曳山と若者たち―秋田県・角館> 写真・文章 小西 賢吾 * |
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「交渉!交渉!」 |
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彼らは、幼い頃から祭りの中で育ち、普段から顔を合わせている。交渉員たちは、交渉の相手や、背後の責任者が誰か、その性格や癖まで踏まえた上で交渉に臨むのだという。交渉は責任者のよりマクロな戦略とも密接にリンクする。彼らは前年の展開や、ときに数十年もさかのぼった経緯を踏まえ、曳き回しの計画を練っているのだ。ヤマは交渉を行いながら、自らの道を切り開き進んでいく。最後に待つのはヤマブッツケか、それとも・・・・? この祭りの「わかりにくさ」は、こうした個々の場面や動きの中に織り込まれた関係の多さ、厚さに起因しているといえる。まだその全貌を知るには至っていないし、知る時が来るかもわからない。ただ、若者の一員として微力ながら祭りに関わり、人垣に体をねじ込んで初めて交渉の言葉を聞いた時から、私はこの祭りに踏み込み、自分なりに「わかる」道しるべを得たのかもしれない。 「いいお祭りをする」という言い回しがある。一見簡単にしてその意味は重く、深い。 若者はそのために奔走する。決して楽しいことばかりではない。何か名状しがたい力に突き動かされるように動き回り、気がつくと祭りは終わっている。アトフキ(祭り後の納会)の席で誰ともなく「いいお祭りしたな・・」との声が漏れる。その時の穏やかな表情は忘れない。しかしその直後、心は次の祭りへ向かう。課題は山積している。祭り全体の運営からヤマの曳き回し、一人ひとりの関わり方に至るまで。再び彼らはそれぞれの生活の中で「いいお祭り」に向けて歩みはじめる。 そして私はまた角館を訪れる。駅を出て町に向かい歩いていると、「お帰り」と声をかけられる。じわりと喜びを感じる瞬間である。空き地や駐車場にシートで覆われたヤマが見られるようになると、祭りは近い。私たちは「オイサ、オイサ!」の掛け声とともに、再びあの熱狂の中に飛び込んでいく。新たなストーリーが紡ぎだされる瞬間を共有するために。
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<角館(秋田県仙北市)へのアクセス> 京都から:寝台特急「日本海」で秋田経由、約14時間 新幹線(東京乗り継ぎ)で約6時間 大阪空港から:秋田空港まで1時間30分、空港から約1時間 東京から:秋田新幹線「こまち」で約3時間 「角館のお祭り」は毎年9月7日―9日に行われます。 詳しい観光情報は:角館町観光協会 http://www.hana.or.jp/~kankou/ 「角ナビ」 http://www.hana.or.jp/~kigata/ |
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* 博士後期課程 | ||
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