1. 人種概念の普遍性を問う―問題提起―
竹沢泰子 (京都大学)
yasuko@zinbun.kyoto-u.ac.jp
「人種」は今日、日本では一般に関心が薄いものの、人文・社会科学において最も研究が盛んなテーマの一つである。人種概念の起源に関する長年の論争は、それが人間が生来持ち備えるもので、古代から存在する普遍的な概念か、あるいは近代におけるいわゆる西洋の領土拡大と資本主義の産物かをめぐるものである。しかしこのような議論では、なぜ現地社会の指導者が、経済的・政治的制度において人種主義的政策を実践するのに積極的な役割を担ったか十分に説明できない。指導者らは、国内のマイノリティや植民地での被植民者に対する自らの搾取を正当化したり、あるいは欧米の人種主義や帝国主義の脅威に対する抵抗として、人種概念を利用したり修正の上援用したりしたのである。また皮膚色などの外見上の身体的特徴が欧米以外の社会で人種概念においてどの程度重要性をもつのかについても再考を促したい。さらに一つの大きな課題として我々が考えなければならないのは、生物学的な意味での「人種」が本来価値中立的で、生物学的概念としての有効性を否定する立場は「ポリティカル・コレクトネス」によるものかどうかである。報告では生物学的概念としての人種が、その18世紀の科学的概念としての誕生時においても、あるいは19世紀から20世紀初めの普及後においても、人種の他の側面といかに密接に絡んでいるかを強調したい。近代における植民地主義、帝国主義、国民国家の形成が果たしてきた役割に光を投じ、かつ「人種」概念のいくつかの重要な位相に関する試論を提示しながら、異なるディシプリンを横断しながらも「共通の言語」として人種を論ずることの重要性を主張したい。

<プロフィール>

竹沢泰子(たけざわ やすこ)

京都大学人文科学研究所助教授 

文化人類学

アメリカ合衆国における移民やマイノリティに関する研究から出発して、人種概念に関心を抱くようになった。現在は特にアメリカにおける人種概念と人類学との歴史的関係について研究を進めている。国内では震災後の神戸のエスニック集団間関係の変化についてフィールドワークを行っている。

著書・主要関連論文に、『日系アメリカ人のエスニシティ』(東京大学出版会, 1994); Breaking the Silence: Redress and Japanese American Ethnicity (Cornell University Press, 1995); “Racial Boundaries and Stereotypes: An Analysis of American Advertising,” The Japanese Journal of American Studies 10, (1999);「アメリカ人類学と人種」(『文化人類学のフロンティア』所収 ミネルヴァ書房, 2002.10)など。

 
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