6.帝国日本の人種および人種主義 
冨山一郎
(大阪大学, BQE04666@nifty.ne.jp)
人種概念は19世紀の中ごろ、自らが属すことのない西洋における概念とともに、日本に導入された。このプロセスを考える上で重要なことは、その自己言及性である。つまり近代日本における人種概念の基本的な性格は、国家形成という点において存在しているのであり、他の導入された概念とともに国民国家として自らの姿を内と外の両側面において表現していく点にあるのである。こうして19世紀の終わりになると、国境線は確定され、徴兵制などの近代的制度も確立した。

この国境線の画定や近代的制度の確立というプロセスにおいて、統計学的な国民の登録とともに、北と南の国境線の住む住民たち、つまり「アイヌ」と「琉球人」は、一連の人類学的調査にさらされることになる。そしてこうした人類学と統計学は、資本主義と植民地主義のために、互いに関連しあいながら運用されることになった。だがそれは、急激に近代化を推し進めた日本社会にアンビバレントな性格をもたらすことを意味していた。つまり西洋世界への包摂が、商品や労働力といった用語において表現されながら、同時に近代世界における自らの固有性をも定義しなければならなかったのである。

日本が帝国へと形成されていく中で、この帝国は、こうした普遍的用語が属する西洋近代に脅迫されるようにして人種概念を本質主義的だが文化的な用語に置き換えるようになる。この置き換えは、さきほどの日本の近代におけるアンビバレントな性格を意味しているだけではなく、資本主義が領土的な帝国として存在せざるを得ない困難さでもあった。この報告でわたしは、この資本主義と領土的な帝国の展開にかかわる困難さに焦点をあて、文化的な言葉により粉飾されたこうした近代日本の人種概念が、グローバリゼーションの時代において新たな役割を演じる可能性があるということを考察しようと思う。

<プロフィール>

冨山一郎(とみやま いちろう)

大阪大学文学研究科助教授

主な研究テーマは、植民地主義に関わる歴史的、文化的諸問題。主要著書として、『近代日本と「沖縄人」』(日本経済評論社, 1990);『戦場の記憶』(日本経済評論社, 1995);『ナショナリティの脱構築』(共著, 柏書房, 1996);『暴力の予感 : 伊波普猷における危機の問題』(岩波書店, 2002)など。

 

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