7.人種主義と部落差別 
黒川みどり    (静岡大学教育学部)
mikurokawa@aol.com
 日本には、部落民というマイノリティが存在しており、それらはおおむね、近世封建時代の賤民身分に由来するとみなされている。部落の人々も、いわゆる“同じ日本人”であり、生理的、宗教的、文化的に違いがあるわけではない。しかしながら彼らは依然、とりわけ結婚においてしばしば差別を受ける。現在でさえ部落民であることがわかると、汚い、血がけがれる、人種がちがう、といった理由をあげて差別をする人々が存在する。そのような人々は、部落民に対する恒久的な差別を欲しているのである。

 我々は、このような差別が人種主義に近似していることに気づく。実際に明治時代には一部の人類学者が、部落民は日本人とは人種が異なっており、多くの場合その祖先は朝鮮人に求められた。そうして部落の人々に、不潔、病気の温床、異種という標識が与えられていったのである。この人種主義的認識は、明治末期に民衆レベルに浸透していった。

 のちに歴史家喜田貞吉が、人種起源説を否定した。しかし、民衆の多くは、部落人種起源説を非公式に保持していった。そうして差別からの解放をめざして結成された水平社も、戦後民主主義も、このような差別のありようを完全に打破することはできなかった。

 人種による線引きは、生まれによって決定されており、その後に変えることのできないものである。したがって非部落民として生まれた者は、人種主義を維持することによって安泰たりうる。すなわち、この意味において部落差別の底流にも人種主義が存在しているのである。

 私は、近代社会における被差別部落認識の歴史的考察をつうじて、人種主義と部落差別の関係を考察したいと考えている。

<プロフィール>

黒川みどり(くろかわ みどり)

静岡大学教育学部教授

日本近現代史専攻 主に部落史、思想史

近代社会における部落問題、ならびに大山郁夫などの知識人の思想の考察をつうじて、部落問題に代表されるような差別を内包し、市民的自由を十分に根づかせることのできなかった近代日本社会の問題をえぐり出していきたい。

著書に『異化と同化の間 被差別部落認識の軌跡』(青木書店, 1999);『共同性の復権 大山郁夫研究』(信山社, 2000)など。
 
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