8. 植民地主義、カースト、人種の神話:インドの信仰と西洋の科学の相互作用についての歴史的視座
スバドラ・チャンナ
 (デリー大学, csubhadra@hotmail.com)
本報告では、どんな形態の不平等にも共通の基盤があるということを述べる。カースト差別や人種差別は、社会的に創り出された不平等が、天賦のものとして合理化されたり正当化されたりするという共通点をもつ。古代のカースト制度においては、その正当化は、神話や神が定めた生けるものの性格づけに求められた。西洋世界は固有の人種理論をもって植民地支配者としてインドにやってきて、それをまず最初に支配を正当化するために、次に支配を促進するために利用した。残念なことに、当時のインド人エリート層はまず西洋的な教育を受け、やがて植民地支配者と同じような仕方で西洋科学を利用するようになった。インド人エリート層は、当時のインド社会に存在していた不平等、すなわちガンジス平原の文化的ヘゲモニーに基づく不平等のみならず、カーストに基づく不平等をも正当化するために、(西洋科学に由来する)身体計測学的測定値を利用した。インド・アーリヤ人の神話、「ダスユ」と呼ばれた人々(先住民)の人種的劣位の神話、ヨーロッパ起源の(人種的に)優れた侵入者(アーリヤ人による先住民の征服説=「アーリヤ人侵入説」)の神話、これらはどれも植民地支配者だけでなく、(在地の)伝統的権力の保有者にも関心を抱かせた。高カーストの人々は、自分たちの発生学的な起源を白色人種にたどることで伝統的に優位な立場を正当化し、植民地支配者たちもまた身体計測調査を通じて植民地支配を正当化しようとした。西洋科学は、高カースト出身の知識人と低カースト出身の知識人の闘争の場となっていた宗教にうまく取って代わった。時期的には18世紀から19世紀初頭にかけてのことである。
<プロフィール>

スバドラ・チャンナ

インド・デリー大学人類学部助教授

デリー大学で社会人類学の教鞭をとる。インド社会一般における、ジェンダー、カースト、様々な形態の不平等(人種も含む)に関心がある。インドの各地、とくに北インドでフィールドワークをおこなっている。著書4冊、編著2冊、そのほか、35本の論文を発表している。1997年から2000年まで、インド人類学会の会長を務めた。
 
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