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21世紀を迎えた今日,冷戦構造の終結と経済活動や情報伝達のグローバル化は新たな問題を生みだしつつある。イデオロギーや政治・経済的利害の対立を軸とした問題がその比重を減じ,急速な発展をとげつつある科学技術と人間の倫理の間,またグローバルな基準にもとづく多国籍企業の利潤追求と地域の生活の間などに生じる摩擦やきしみが注目されるようになった。国境を超えた地域の統合が進みつつある中で,21世紀には「文明間の衝突」が顕在化するという予測もある。政治体制や国民経済といった表層の構造にのみ着目するアプローチによってこうした問題を理解することは,もはや不可能と言わねばならない。それぞれの社会の伝統に根ざす文化価値,さらには集団的記憶としての歴史は,人々の思考と行動を規定する要因としてきわめて重要である。こうした文化諸領域の研究が,今後ますます重要性を増すであろうことは間違いない。
しかし,こうした文化価値や歴史もけっして固定したものではない。現代の世界規模の情報伝達や人やモノの移動は,それらをつねに変化させ再編する。文化諸領域をこのように時間軸と空間軸のなかのダイナミックな生成の過程として取り扱う新たな学問方法が求められているのである。京都の東方学が伝統的に古典研究を重視してきたことは確かである。しかし,古典は過去の世界に閉じこめられた対象として存在するのではない。これを現代社会の基底にある文化伝統として位置づけ,また文化伝統がつねに現代の立場から再解釈され,取捨選択のうえ動員されるものであることに着目するならば,これまで蓄積されてきた東方学の方法とその成果は,現在求められている新たな学問方法の立脚点の一つとして重要な位置を占めることとなろう。古典に立脚しながら,しかも典籍だけにとらわれぬ,同時代的かつ動態的な東方学とでも言うべき視点が求められているわけである。
文化諸領域の研究にとって典籍や文書が根幹をなす資料であることは,今日においても変わりない。しかし,大規模かつ組織的な資料の電子化が進み,情報伝達の方法も多様化しつつあるなか,新たな東方学はその技法においても,取り扱う対象においても大きく変容していくことが予想される。我々のめざす新たな東方学のなかで,漢字情報学は技術的な基盤を提供するのみならず,情報化時代の文化の受容や伝播,変容の過程を研究するものとして位置づけられるであろう。
このたびのシンポジウム「東方学のフロンティア」では,まず,先駆者として新たな方法と対象を模索し大きな成果をあげてこられた4名の方々から,その研究経過の一端をご紹介いただくとともに,その経験にもとづきながら21世紀の新しい東方学の構築にむけたご提言をいただく。ついで,これらの報告をふまえて参会者による討論をおこない,東方学の新たな展開の可能性を追求する議論の場としたい。
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