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報告書 紀要 所報 (第四六号 創立70周年記念)
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人文科学研究所所報「人文」第四六号 1999年11月18日発行

所長あいさつ


個室と共同研究室

桑山 正進    

 北白川の建築計画をしていたとき,個室というものがよくのみこめず,どのくらいのものを描けばよいか相当迷ったらしい。メディテイションできればよいとの狩野先生の言葉で決まったというようなことを,どなたか先輩の先生が本館新築記念号の座談会記事でいっておられたように記憶する。いまや個室はメディテイションの場どころか,作業場のような感じになっていて,メディテイションは作業の中でやっているというのが,個人的な実感である。狩野先生の時代以来,研究所が経てきた年月の厚さと研究情況の変わり様にいまさらながらおどろく。人間の思考の根本は変わらないし,研究の質も変化しているはずはない。情報があまりにも整理されずに多くなったことだけが変わった面であり,それで落ちついて考える時間が乏しくなっているとしたら,なんとも情け無い。

 研究所はひとりひとりの研究者がそれぞれの分野で地道に研究を進め,おおきな成果を蓄積してきた。いま伝統のうえに自由な研究を進めることができるのも,実にこの七〇年にわたる研究所の先学がその時代時代の困難を経て研究の環境を注意深く守り,受け継いできた賜物である。先学に深甚なる敬意を払い,今後なお一層の展開をはたすためにもわれわれの責任はおおきいことを知らねばならない。そういった個人の研究をするのにいまや個室なしの情況は到底考えられないのだが,一方で思うに,個室ばかりが並んでいる状態が果たしてよいのかということがある。個室における研究の関心と拡がりなどから,さらに多くの分野の異見を求めて動く共同研究は,研究所を研究所たらしめている車輪のひとつであって,研究のよい形式をわれわれはまたもっている。北白川の建物についていえば,考古,歴史,科学史など六つの研究室は助手の二人部屋,いわば個室同様にいまなっている。創建当初こういった研究室がどのような経緯でつくられたのかは別にして,その配置はよく建物に調和をあたえている。と同時に,これは研究自体に対しても,文化交渉地帯,ないし緩衝地帯としての役割をもってきたようにおもう。いまその機能は個室化とともにうすくなってきているのであるが,あらたな時代にむけて,共同研究室の意味を考えてみるのも無駄ではあるまい。


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