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守岡知彦 岡田暁生 岡村秀典


人文科学研究所所報「人文」第五三号 2006年6月30日発行

開所記念講演(2005年度)


界面としてのキャラクター

守 岡 知 彦    

 この講演をすることになって、何を話すべきか非常に悩んだ。というのも私の研究に関する抽象的・技術的な話を判りやすく話す自信はなく、また、対象である漢字の話を文字学者でない私がするのもどうかと思った訳である。そこで、むしろ、今我々が確立しようと努力している人文情報学の考え方や気持のエッセンスの幾らかなりでも伝えるような話にしようと思った訳である。

 そこで選んだトピックの一つが『界面 (interface) 』である。近代的なソフトウェア設計の根底には、世界をどのようなものとして捉え、抽象化するかという『モデル化』という問題があるが、界面はモデル化の結果の一つの側面であるとともに、世界を小さな世界の集合体として構成するソフトウェアのモジュール化における重要な概念でもある。界面はそれが属する形式的体系(言語)によってモデル化された結果を抽象的に記述したものであるが、その抽象的な記述の先に世界の向こう側を見るということも示唆している(そしてこれは人文学と情報学という2つの世界の接点にいる私の立ち位置を象徴したものでもある)。

 もう一つのトピックである『キャラクター』は一つには私が普段対象としている文字を示したものである。そして同時に人格や物語の登場人物などを示す言葉でもある。そこで、私が提案している文字処理手法「Chaon モデル」をとっかかりに文字、特に、漢字について簡単に述べるとともに、それを飛び越えて物語の登場人物、特に、『類型的キャラクター』について論じてみた訳である。無論、これは駄洒落ではあるのだが、対象物の情報学的構造の類似性に基づいて一般化(抽象化)するというソフトウェア設計の態度を象徴した例といえなくもない。そして、文字のモデル化の中で生まれた抽象文字、字体(グリフ)、字形 (glyph image) 、 異体字などの概念、あるいは、六書のような漢字の伝統的なモデルは類型的キャラクターの世界においてもある程度適用可能であるといえる。そして、符号化文字モデルや東浩紀氏のデータベース・モデルへの不満も、キャラクターのテキスト・物語への界面としての機能的側面が欠けている点が共通しているといえなくもない。

 こうした『一般キャラクター論』を今後展開して行くかどうかはともかくとして、人文情報学のエッセンスの幾らかなりとも伝えることができたならば幸いである。


ピアニストになりたい!
―練習曲の思想と一九世紀
岡田 暁生
雲岡石窟寺の考古学研究 岡村秀典