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狭間直樹 杜石然 バスチド - ブルギエール


人文科学研究所所報「人文」第四七号 2000年3月31日発行

開所記念講演(1999年度)


時間解釈と日本の影響

 ――中国近代における過去・現在・未来の概念――

マリアンヌ=バスチド - ブルギエール(フランス国立科学研究センター研究員)

 時間の概念及び時間の使い方の変化は近代化の過程の中で極めて重要な変化であった。それは人々が自身の生活を律し,社会の将来を動かして行こうとするやり方に影響を及ぼした。中国における時間解釈の変化はアヘン戦争以前に始まっていたが,中国の政治思想のなかで時間に関する新しいディスコースが形成されるのは,二〇世紀に入ってからである。来日した中国人留学生や旅行者を通じて,日本はこの変化に大きく寄与した。当時,日本はすでにグリニッチ標準時に基づく国際的な時間体系のもとにあった。産業化は近代化と相俟って恒常的時間の実施を強要し,義務教育,軍隊,工場,鉄道など中央集権的時間構造が形成されていた。中国には統一的な時間制度がなく,中国人旅行者らは日本の標準化された時間システムに魅了された。

 標準化された時間の中では,あらゆる時間は均質かつ一様であった。時間は「使用するもの」となり,それは現在の各瞬間においてなされたから,現在が過去より重要になった。中国の伝統的世界観では,現在は過去を完成させるものであり,過去は現在を正当化するものであって,過去は現在に比べて優越していた。中国には「未来」をあらわすはっきりした言葉はなく,あっても相対的なものにすぎなかった。一八八〇年代末以来,日本の歴史家たちは,ヨーロッパ史の原理に従属しない,自らの術語で理解された日本およびアジアの過去に目を向けていた。日本の「東洋史」の出現は中国人の歴史的過去に対する認識の変化に大きな影響を与えたのである。

 過去は知的考察の対象となり,未来を規定する力を否定された。一方,現在は自由なイニシアチブに開かれた舞台となり,未来が形作られる場へと変わった。世紀交代期の中国の現状は,多くの青年たちに「差し迫った」感覚を抱かせた。この危機意識は,個人の意志の力を称揚する主意主義の影響(これも日本経由であった)と結びつき,個人の自由な振るまいによって社会を変えることができると信ぜられるようになっていく。その最も顕著なあらわれが「革命」であった。


中国近代における帝国主義と国民国家――日本のアジア主義との関連において―― 狭間 直樹     
西学の伝来と明清時代の実学思潮 杜 石 然