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高木博志 浅原達郎 東郷俊宏 阪上 孝


人文科学研究所所報「人文」第四七号 2000年3月31日発行

夏期講座(1999年度)


明治維新と古代文化の復興

高木 博志    

 なぜ近代において「古代」が重要か。たとえば一八八〇年代にロシア公使柳原前光が,十九世紀後半の国際社会は,列強各国が固有の古い歴史を有する,文化的「伝統」を競う国民国家の相克の場であるとし,単一の「ヨーロッパ」文化はないと論じる。したがって日本における独自の文化的「伝統」の創出は,始原の古代文化の復興という形をとって,国際社会を射程においた「一等国」になるための戦略として立ち現れる。

 たとえば岡倉天心は,「日本美術」のはじまりとしての古代美術史をつくりだす。それはギリシア・ローマに匹敵する古典古代が日本にもあるという,ヨーロッパ美術史の語りにのった美術史である。それと同時に,日本の天平彫刻を頂点とする古代美術は,欧米にも中国にもない,固有な美術であるとし,国宝という概念を生みだしてゆく。

 古代文化の復興は,神話的古代と歴史的古代の二つの内容を有する。これら古代文化の復興は,一八七七年の明治天皇大和行幸を政治的契機とし,一八八〇年代に,立憲制を射程において,展開してゆくことになる。

近現代の神武天皇像 近世の神武天皇像

 神話的古代の復興としては,明治維新の神武創業の理念の視覚化,幕末の神武陵の造営,神武天皇をまつる橿原神宮の創建,そして日清戦争後の畝傍山山麓の神苑形成をへて,紀元二千六百年事業(一九四〇年)に至る。歴史的古代の復興は,フェノロサ・岡倉天心が手をつけた法隆寺・興福寺などの古社寺の復興,皇室財産としての大和三山や正倉院御物の形成,一八八九年の帝国奈良博物館の発足,吉野山・奈良公園などの名勝や平城京・古墳などの史蹟の整備・保存として展開する。そして明治期の文化財の体系的な調査が,制度としての日本美術史成立の基礎作業となる。のちには和辻哲郎『古寺巡礼』などの大正以降の教養主義,そして観光や学校教育を通じて,古代文化をめぐる国民的な「常識」が定置され社会に浸透してゆく。


漢元年の惑星集合 浅原 達郎     
臨床医学における時間の知――中国医学の窓から―― 東郷 俊宏     
創造のとき,進化のとき 阪上  孝