最新 講演会 研究所 研究活動 図書室 出版物 アーカイブ 目次
報告書 紀要 所報 (第四七号 2000)
随想 夏期講座 開所記念 彙報 たから 共同研究 うちそと 書いたもの 目次
アスコ・パルポラ 荒牧典俊 井狩彌介


人文科学研究所所報「人文」第四七号 2000年3月31日発行

随  想


『国際ヴェーダ学ワークショップ』の周辺

井狩 彌介    

 昨秋の十月三十日から十一月二日にかけて,人文研創立七十周年記念のシンポジウム・シリーズの一環として『第二回国際ヴェーダ学ワークショップーヴェーダと初期インド文明―(The Second International Vedic Workshop : The Vedas and Early Phases of Indian Civilization)』を開催することができた(京大会館,京都市国際交流会館)。前回ワークショップが一九八九年にアメリカのハーヴァード大学で行われたが,それからちょうど一〇年になる。その報告書もやや遅れて近年に刊行され,親しい各国の研究者のあいだからそろそろ次回をというやりとりがされていたのだが,私が主催を引き受けるはめになってしまった。いずれにせよ,研究者仲間にうまく乗せられたということになろうか。

 当初は,日頃情報をやりとりしている各国の研究者仲間を中心に,少人数で顔を突き合わせておしゃべりをする小規模な国際シンポジウムぐらいのイメージ(「ワークショップ」の名称にしたのはそもそも共同研究の延長ぐらいの想定だった)で計画を公表したのだが,インド学の電子メイルの国際ネットワークなどで取り沙汰されている内に電子メイルとファックスでの参加希望の数がどんどん膨れ上がってゆき,実行委員会の中心に居た私と藤井正人君とは次第に不安になってきた。国際的な関心の高まりは嬉しいのだけれど,あまり大規模にするとふつうの「学会」になってしまい,当初意図していた親しい研究者のインティメートな集まりの枠を超えてしまうのではないかと思われたからだ。また,当初に想定した予算枠を遥かにオーヴァーする恐れもあったし,参加者をすべて滞在させる施設の確保も簡単にはゆかない。しかし,いっぽう送られてくるレジメだけで報告発表の質を選定して取捨選択することには難しい問題がある。いくつかを断ったものの,結局,国外から八カ国二五人をふくめて,総数約八〇名という当初予想した人数の二倍以上のシンポジウムとなった。学会前の数週間と学会中は主催者としては心理的に綱渡りの連続だった。さいわいに無事に全日程を終えて,参加者からは内容,運営ともに望外の好評を頂くことができた。

 今回の学会準備を通じてあらためて実感したのが,なんといっても電子メイルの威力だった。いくつかの国を除いて,ほとんどの研究者がIDを持ってふだんにこれを利用している現状では,これがもっとも効率的な連絡法である。すべての連絡の九〇パーセント以上が,電子メイルでおこなわれた。(また私のように日常の事務整理能力に欠ける場合は,ファイルの整理を効率的に行うメイルソフトはありがたい存在でもある。)電子メイルの普及により研究の情報交換が早くなったということはここ一〇年ぐらいの間に実感してはいた。たとえば,新しい発見をアメリカの研究者に知らせると,翌週にいくつかヨーロッパからこれについての問い合わせが入るという具合で,われわれインド学の分野でも研究情報のスピードが格段に早くなっているようだ。

 また,連絡作業を通じて,各国の研究者のあいだでのコンピュータと電子メイルの普及の状況が大体みえてくる。研究分野にもよるのだろうが,フランスやロシアなどでは意外にまだ手間がかかる場合が多い。インドでは人文科学の研究者の個人レベルではまだ連絡が取りにくい状況である。やむを得ない場合は国際電話と郵便で連絡を取るわけだが,電子メイルによる連絡を日常にしているとこれらの従来の方法がまだるっこしく感じられてくる。ただし,逆に緊急を要する時点でのコンピュータの故障は致命的でもある。この学会準備の期間中は,またコンピュータのありがたさと恐さとをともに実感した日々でもあった。


古典文献学と哲学 荒牧 典俊     
日本でルーツを求めて アスコ・パルポラ