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人文科学研究所所報「人文」第四八号 2001年3月31日発行

夏期講座(2000年度)


西南中国の民族と言語

――社会言語学の視点から――

池田 巧

 中国の民族学研究者から「川西民族走廊」と呼ばれている四川省の西側から青藏高原へとつながる山岳地帯に居住するチベット系少数民族の言語と文化について,ここ数年のフィールドワークで得られた資料をもとに概観を行ない,民族のアイデンティティーの問題について考察した。

 まず四川省の東半分の広大な四川盆地は三国時代に劉玄徳が都を置いたことでもよく知られる漢文化圏であるが,西側の山岳地帯は古代から現在に到るまでチベット文化圏に属することを解説し,省都の成都から東チベットの中心都市であるデルゲ(徳格)までのルート「川藏公路」沿いにチベット文化圏の広がる道筋を地図でたどった。デルゲはデルゲパルカン(徳格印経院)というチベット大蔵経の経典印刷所がある街として仏教研究においてはつとに有名で,現在でも昔ながらの木版印刷を行なっている。しかし成都から車で約一週間を要する内陸に位置する街であるため,この地を訪れた外国人は極めて少ない。一九九八年夏にトヨタ財団の研究助成を得てジャーナリストの中西純一氏とともに現地を訪問した際に撮影したビデオを上映し,木版印刷の工程とデルゲのチベット文化,およびチベット語デルゲ方言について紹介した。

 いっぽう「川西民族走廊」にはチベット語とは異なる約一三種類の少数言語が話されている。これら少数言語の話し手の宗教・生業・建築などはいずれもチベット文化の特色にあふれ,民族のアイデンティティーもチベット人であるけれども,家庭と村落内部では母語として「地域語」を話し,商用などで街に出ると公用語である漢語の四川方言か民族語であるチベット語カム方言を話している。これらの少数言語はいずれも今世紀に入ってからその存在が確認されたもので,話し手の人口もそれぞれ数千人規模と推定されているが詳細は不明。その類型構造の研究は,歴史的記録の少ないチベット系諸語がたどった歴史的変化の過程を跡づけるうえで貴重な情報を提供してくれる。いわば活きた化石のような極めて貴重な存在であるにもかかわらず,いずれも「地域語」として扱われて中国の言語政策の対象とはなっていないため,存亡の危機に追いやられる可能性があるという実情についてやや詳しく指摘した。詳細については拙稿「山の道」大修館書店『月刊言語』二〇〇〇年六月号を参照されたい。


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