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人文科学研究所所報「人文」第四五号 1999年3月31日発行

共同研究の話題


進化論を読む育種家たち

武田 時昌    

 今日において,研究者にもっとも支持され,一般にも広く浸透している科学理論といえば,ダーウィンの進化論であろう。その社会的,文化的な影響を考究するための準備として,一年間『種の起源』に遡って勉強してみようというのが,「進化論を読む」研究班の目的である。

 毎回,ダーウィン,スペンサー,ヘッケル,今西錦司等の進化論者の著作を一つずつ取り上げ,読破していく(スゴイ!)。名前だけしか知らなかった科学書を実際に通読すると,小さな発見がいくつもある。それを各人が出し合ってあれこれ討論していると,科学者の実像と進化論の本質が少しずつ鮮明になる。

 参加者は大勢というわけではないが,同一のテキストに対して,個々の読み方,味わい方がまったく異なり,思いもよらない発言が続々と出現する。宮沢賢治の詩の解釈を「出題」する発表担当者もいれば,脳の構造,生殖器の機能といった特定の部位に疑問の鋭いメスを入れる人々もいる。この書名のフランス語はちょっとおかしいという講評も出る。

 その読書のあり方は,生物学の話題を自己の庭に植え替えて鑑賞するという「人為選択」の有意性が感じられる。しかし,ベクトルを異にする興味と見解が競い合い,交雑し,やがて淘汰されると,これまでの進化論史研究にない議論,新種の造花が見事に咲く。

 東方部の共同研究しか参加したことがなかった私にとって,きわめて刺激的であることは言うまでもない。彼らは,まさにダーウィン進化論に論拠を提供した,腕利きの育種家の末裔だ。この読書会で拾い集めた種が,それぞれの研究フィールドでいったい何に進化していくのか,とても楽しみである。


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〈発見術〉としての人文学へ 上野 成利
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