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人文科学研究所所報「人文」第四五号 1999年3月31日発行

随  想


バーチャル・ネイバーフッド

勝村 哲也    

 制度を語るのに理念より説き起す議論を聞きながら,「博士驢を買う。書券三紙,未だ驢の字有らず」という諺が浮んだ。ヨーロッパ中世のセミナリオの教授ならどう言うかなどと想像しているうちに,突然,マルク・ブロックの言葉が気になった。部屋にもどり書架を捜すと,ある。「見る角度によって,封建時代のヨーロッパ文明が,時には驚くばかり普遍的に見えたり,時には極端に局地主義的に見えたりするとすれば,この矛盾の源はなによりも非常に一般的な影響の流れが遠くに及ぶことを助長し,同時に,近隣の諸関係の劃一化を細部では妨げていたコミュニケイションの体制に起源があった」(新村・森岡・大高・神沢訳『封建社会』第一巻)。

 古代を人文学,中世を宗教学,近世を政治学,近代を経済学の時代とみれば,すでに遠く隔った中世なのに,あまりにも現代と似通っているではないか。その原因は,マルク・ブロックの指摘する中世のコミュニケイションの体制と,軌を同じくする体制が,現代に再び出現し始めているからではないか訳文中の近隣という語を見つめながら考えた。『広辞苑』の第五版にはチャットという言葉が採録されている。元来は世間話とか床屋談義に類するが,ここにいうチャットインターネット上に開設されたホームページを通じて,一面識もない他人同志がおしゃべりを楽しむことである。そして,日頃顔見知りの人達との会話はできないが,チャットならいくらでも続けられるという人達によって,インターネットがコミュニケイションの場となっているのである。彼らには近隣はない。あるのはただ,リセットすれば消えてしまうバーチャルな空間の拡りである。そしてマルク・ブロックが,「敢えて言うならば,人びとは今日と比べて無限に疎遠であった」と記す事態との類似に,一層驚かされる。

  インターネット拡充の趨勢は定った。それならば,稀薄になりがちな近隣や隣人との結びつきを,インターネットによってむしろ意図的に強めようという立場を,バーチャル・ネイバーフッドと表現するというのはどうだろう。パシフィック・リム諸国の,学術とくに高等教育のためのネットワークをもつパシフィック・ネイバーフッド・コンソーシアムのなかに,人文学と宗教学に関心をもつ近隣の研究者が語らって漢字情報のプラザを開くことになった。このプラザで血の通ったバーチャル・ネイバーフッドの実現を期待している。ちなみにこの組織の訳語は太平洋近隣協会。ご関心のむきはホームページ(http : //PNCLink.org)をご覧いただきたい。


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