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人文科学研究所所報「人文」第四七号 2000年3月31日発行

共同研究の話題


宴の後,言葉の森

宇城 輝人    

 共同研究「一七八九年人権宣言成立過程の研究」は本年三月をもって終了する。その成果は遠からず資料集にまとめられるだろう。だが個人的感慨としてはこの研究会は終わらない。

 そう感じるのは,憲法問題に取りかかるため「人間と市民の権利の宣言」が一七八九年八月二七日に「さしあたって」中断され,未完のまま宙吊りされているからかもしれない。あるいは研究会が進むうちに,夢想がちな私はいつのころからか,抽象原理の検討に倦み疲れた議員たちが退出した後の議場に乱雑に残された言葉を拾い集めているような,そんな気がしていたからかもしれない。ラボーさんお疲れさま,シエースさんお帰りで……

 それはたんに私の語学力が貧弱だからなのだが,外国語の意味は遠い。人権宣言にかんする膨大な演説と草案は,議員たちが去っていった後では,富永班長を初めとする班員のみんなと一緒に議論して日本語に移し換えていくしかなかった。いや,ことはそれほどにも単純ではなかった。

 遠い言葉で表現されていたのは,われわれの近代的政治感覚そのものが生みだされるプロセスであって,ゆえに,あらゆる始まりにかならず含まれる混乱や齟齬,うまく結実しなかった萌芽,失われた可能性に満ちていた。市民,自由,平等,権利,義務,幸福…… われわれに親しい問題でもあるだけに,かえって理路が見えにくい。右も左もないとは,このことである。

 議員たちがいなくなった後の議場は,しかしそれほど寂しい空間でもなかった。言葉を拾い集める班員たちも劣らず思考をめぐらせ言葉を交わし,ときに国民議会さながら紛糾し,ときに哄笑が弾けもしたのだから。

(日本学術振興会特別研究員) 


無言をめぐって 横山 俊夫
ポルノグラフィー研究 大浦 康介
中国共産党史の今日 江田 憲治
「訳経僧伝」研究班のこと 真下 裕之