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報告書 紀要 所報 (第四七号 2000)
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人文科学研究所所報「人文」第四七号 2000年3月31日発行

所のうち・そと


情報の行方

高嶋  航    

 一九九九年一一月下旬,人文科学研究所の主催で国際シンポジウムが開かれた。年に三回もスーツを着ることのない僕にとって,前夜の歓迎会をあわせると計五日,毎日革靴を履いて家をでることはとりわけ苦痛であった。

 準備は一年以上も前から始まり,僕は事務担当としてこのプロジェクトに関わることになった。はじめは仕事も少なくのんきに構えていたのだが,論文が送られてくるようになると俄然慌しさを増した。なにせわからないことばかり。いろいろ頭をひねって周到に準備をしたつもりでも,問題はどこからともなく生まれてくる。最近はEメールの普及が進み,意識の上ではもちろんのこと,時間や費用の面においても国の内外の境界はなくなりつつある。おかげで仕事の効率は随分と上がったはずである。しかしいいことばかりではない。「気楽」さから,ついついやり取りが頻繁になってしまうのだ。未確定の情報に気をもみ,振り回されることがしばしばであった。手紙や電話と違って,情報量が増えた分,個々の情報の重みや確かさが減っているような気がする。いくら技術が進歩しても人間の苦労は変わらない。

 二〇〇〇年の正月,僕はタイのとある半島でクライミングに興じていた。外部の情報から全く遮断された状態で一〇日ほど過ごしたあと日本に帰って来て,二〇〇〇年問題が何事もなく終わったことを知った。この間,日本では,多くの人たちが二〇〇〇年問題の影に怯えながら過ごしていたのだと思うと,少し愉快な気分になった。帰ってきたその足で研究室に向かい,パソコンのスイッチを入れる。起動しない。まさか。再起動してみる。こんどは起動した。すぐにメールを開く。何十件もメールがたまっていた。メールを貪るように読みながら,ふと気づいた。ついさっきまで情報に振り回される人たちを鼻で笑っていたくせに,いま僕はなんて情報に飢えているんだろう,と。情報から隔絶された南の島ならともかく,情報化社会の只中にあって情報から逃れることはできない。そうであるからにはこれからもうまく情報とつきあっていかねばならない。


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親碗を叩く 岡本 稲丸