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報告書 | 紀要 | 所報 | (第四九号 2002) |
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麥谷 邦夫 | 田中 雅一 | 竹沢 泰子 | 船 山 徹 | 古勝 隆一 | 菊 地 暁 |
所のうち・そと |
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キンゼイ研究所を訪ねて |
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田 中 雅 一 |
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「明日から久しぶりにベッドでぐっすり眠れる」,初めての合衆国本土への渡航を前にして,とつぜんこんな思いがわいて きた。昨年八月末のことだ。しかし,この旅は,九月一一日の同時テロという事件で,けっして安穏なものではなかった。 首都で足止めをくらい,予定より六日も遅れて帰国したからだ。今回の調査でわたしが意図していたのは,アメリカの公私 を代表する文化といえる軍事と性について関連施設を訪ねることであった。ここでは,後者の例としてインディアナ大学構内 にあるキンゼイ研究所を紹介したい。 キンゼイ研究所の正式名は「性・性差・再生産のためのキンゼイ研究所」(The Kinsey Institute for Research in Sex, Gender and Reproduction)で,いわゆる『キンゼイ・リポート』(男性版が一九四八年,女性版が一九五三年に出版された) で有名なアルフレッド・C・キンゼイ博士(一八九四―一九五六)によって一九四七年に設立された。かれは,一九三八年 にインディアナ大学からの要請で人間の性行動と結婚についての講義をはじめた。そのために収集した資料を保存を目的 として研究所が設立されたのである。 研究所は講義棟の三階と四階を占める。名前の割に地味だというのが第一印象だ。スタッフのほとんどが動物学や医学 関係者で,研究成果も多くが性科学の領域におさまる。しかし,本研究所はそのコレクションによって,セクシュアリティに 関心のある内外の人文・社会科学系の研究者から注目されている。たとえば商業フィルムが六千,ビデオ七千,写真五万 枚,そのおおくがポルノグラフィーとみなされている代物である。欧米のものが中心だが,日本や中国のものもある。 閲覧室は人文研のものより小さいが,ハスラーなどのポルノ雑誌やラス・メイヤーズ映画の主題曲が収められているCD が新着棚に置かれているところが他のところとは大違いである。テーブルに座っていると図書職員が恭しく明治,大正時代 に撮られたポルノ写真を持ってくる。こちらも手袋をはめて神妙にこれを閲覧する。そんなふうにして三日間をここで過ごし た。 人文研とはその由来も性格も異なるが,セクシュアリティが研究領域として重要になりつつある現在,キンゼイ研究所の 活動はけっして無視できない,そう確信してインディアナ大学を後にした。 (注) 詳しくは研究所のホームページ URL http : //www. indiana. edu/〜kinsey/index. html を参照してください。 |