最新 講演会 研究所 研究活動 図書室 出版物 アーカイブ 目次
報告書 紀要 所報 (第四五号 1999)
随想 退官記念 夏期講座 開所記念 彙報 共同研究 うちそと 書いたもの 目次
冨谷至 籠谷直人 藤井正人 小南一郎 岡村秀典 織田陽 阪谷芳直


人文科学研究所所報「人文」第四五号 1999年3月31日発行

所のうち・そと


雨うけと変な器

織田  陽    

 一九九三年の四月のことであった。研究所の図書室に足を踏みいれ,最初に眼に飛び込んできたのは,壁に掲げられている大津西武の展示会ポスターであった。つづいて視線をすこしあげると,春の採光に無機質に鈍くひかる長方形の灰色の金属製の物体が天井に張り付けられていた。いったいこの物体が室内で果たす役目は何かと考えると,自然に視線がそこに釘付けとなったのをいまでもよく覚えている。

 その年は風の強い梅雨の年でもあった。そんなある日,この物体が雨うけの樋であると女性職員から教えられた。天窓のすこしのすき間から浸透してくる雨水はこの樋をつたい,壁の片隅に置かれているプラスチック製の容器に溜まる仕組みであると。しかし不思議に思ったのは,雨水を何故そのような容器に溜めるのか。床にドリルで穴をあけ外部に流せば,そのような容器は無用ではないか。しかし,この奇妙な物体「樋と器」が設置されるまえには事務机に雨が降り注いでいたのであるならば,これもまた不合理で風流ではないかと。

 それからの五年は室内の樋と壁隅の器にはたいへんお世話になった。夏の夕立,秋の長雨さらには台風の豪雨。幸いに雨水がこの物体から溢れることもなかった。

 こんな人文科学研究所は楽しい場所であった。酒,切腹,髭,金貨,さらには pierced earrings と不思議な雨うけと変な器……。

 

(一九九八年三月まで図書掛長。 現在医学部閲覧掛長)

断章 ――ある問答から 冨谷  至
二度目の台湾訪問で感じたこと 籠谷 直人
カーラント・コレクションヘの旅 藤井 正人
中世学会議 小南 一郎
延安の三月 岡村 秀典
〈人文科学研究協会 研究奨励賞〉
中江丑吉遺品を守ってくれた中国女性のこと
阪谷 芳直