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人文科学研究所所報「人文」第四八号 2001年3月31日発行

所のうち・そと


明治洋画の魅力

高階絵里加

 二〇〇〇年の末に,博士論文をまとめた著書を上梓した。表紙には,論文発表のときからお世話になっている三好企画の三好寛佳氏のご提案もあり,これまでの研究の中でもっとも私の想像力を刺激した二つの作品である山本芳翠の《浦島》と黒田清輝の《智・感・情》を組み合せて使うことにした。いまのところ,この表紙に対する反応は極端に分かれている。「美しい装丁」「大好きな《浦島》が表紙で嬉しかった」といった好意的なものも多かった一方で,1月28日の朝日新聞書評欄では「なんとも不気味」とも評されている。《浦島》そのものについていえば,博士論文を提出したときに先生方の一人から「なぜこんな下品で変な絵を扱ったのか」とのご質問があり,返事に窮したこともあった。けれども,ある人々にとっては気味が悪く「和洋折衷」に過ぎない明治の絵画は,私には魅力つきない研究対象なのである。

 明治期の洋画には,意外にも,日本の神話や御伽噺が重要な位置を占めている。もちろん,このような画題は近世以前の絵巻物や屏風にもとりあげられてはいたが,西洋との出会いの結果,物語絵画の表現は本質的な変容を迫られることになった。

 もともと日本の洋画は迫真的な現実再現(風景・肖像・静物)のジャンルにおいてその威力を発揮してきたが,日本にはなかった西洋の「歴史画」概念の導入に伴って,想像力と構想力を必要とする虚構の世界の構築が試みられるようになる。油絵具を用いることによる技法表現の問題,神話・歴史・伝説の中からどのような物語を選ぶかという主題選択の問題,それまで多くの場合いくつもの場面から成っていたある物語をたった一枚の油絵にいかに表現するかという構想の問題などは,それ以前の日本絵画にはなかった新しい課題となった。日本の洋画家たちは西洋との「強制された」出会いによって,これらの困難な課題に取り組み,その結果,日本的主題の絵画は大きく変化せざるを得なかった。明治十年代頃からあらわれる〈竹取〉〈羽衣〉〈浦島〉〈日本武尊〉〈平家物語〉などの「和」の主題の変容の特色と本質は何であったのか,また,《浦島》のような絵画は黒田清輝の帰国をきっかけとする白馬会の抬頭の後,明治三十年代には一掃され消えてしまったかに見えるが,はたして実際にそうであったのか,このような問題を,これからしばらくは探ってゆきたいと思う。


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