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人文科学研究所所報「人文」第四八号 2001年3月31日発行

所のうち・そと


東京国立博物館での史料整理

高木 博志

 東京国立博物館資料部には,明治維新以来第二次世界大戦後までの,近代の事務書類が残されている。

 近代の博物館は,一八七三年に昌平校の跡地に発足し,一八八九年に宮内省管轄の東京・京都・奈良三帝国博物館が設立される。一九〇〇年に帝室博物館となり,皇室の保護する文化財という位置づけが明確になる。戦後は,宮内省から文化庁へとその管轄をかえ,国民の文化財を展示する博物館となった。

 私は,一九八〇年代から何度も,『東京国立博物館百年史』(一九七三年,第一法規出版)に引用されている,東京国立博物館内部の事務書類を見せてもらえないかと働きかけてきた。が,なかなかガードは堅かった。かつて宮内省の管轄にあった旧帝室博物館は,情報公開が遅れていた。しかし近年になって,内部の学芸員の方々が,未整理の膨大な事務書類を整理し公開したいという意向をもたれ,私も一九九五年から六年あまり整理に参加してきた。

 この間,整理し公開された文書は,簿冊の形態を中心に二千件をこえる。

 いくつか興味深い文書を紹介したい。博物館収蔵品の由来がわかる一八二冊の『列品録』がある。また全国の宝物調査の記録が,壬申(明治五年),明治十年代,一八八九年以降の臨時全国宝物調査局のものと,体系的に残されている。こうした文化財の調査を通じて,絵画・彫刻・書蹟・陶磁器・漆器といったジャンルがつくりだされ,時代区分が生み出された。史上はじめて,国家が十等級の美の価値づけをし,これがのちの国宝の基準につながる。

 戦前の各府県で発掘された考古学的な遺物は府県から宮内省に届け出ることになっていたため,一八七四年から一九四二年までの『埋蔵物録』一二五冊がある。明治初年の骨董的関心にもとづいた地方からの届け出など,時代時代の考古学の学問的発達が読みとれる。正倉院に関する文書によると,一八八四年の正倉院の宮内省移管には,外交上,外賓への公開をコントロールする意図があったことがわかる。正倉院御物は,「宝物外交」として,明治期以来重要な役割を果たした。秋の曝涼時に拝観した内外の高官たちの名簿も残されている。そのほかフランスのアカデミーにならった帝室技芸員制度(一八九〇年に発足)の選考をめぐる書類がある。あるいは一九四一年の日米開戦以前から計画され,学童,人命よりさきに実行された国宝や御物の疎開の記録もある。すでに宮内省では東京大空襲や敗戦を見通していたような,不気味さである。

<> これらは日本近代の博物館と文化財,そして天皇制を考える上で,基本的な史料群といえよう。


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